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地域密着の企業『株式会社 綿引無線』代表取締役のBLOG
リスクと想定外を考える!!

 

5月となりました。

 

3月11日に発生した東日本大震災から早いもので2カ月が過ぎようとしています。我々自身は普段の生活に戻れていますので,時間の経過を早く感じておりますが,不自由な生活を続けておられる被災地の方々は,一日一日が長く感じられているものと思います。一刻も早く安定した生活ができるよう,様々な取り組みが現在続けられていますが,その実現のためには特に政治の力が試されているのではないでしょうか。

 

また,福島第一原子力発電所の復旧作業も昼夜を徹して続けられています。先ずは一刻も早く安定した状態に制御することが必要であり,さらには放射性物質を如何に閉じ込めることができるかということが問題となっています。なかなか現場での状況が把握できない中で,避難区域の指定が発表されたりしたために,一般の不安感は増大するばかりです。こちらも非常事態におけるリーダーの力量が問われていると言えます。

 

この震災にて最も大きな被害を与えた津波や,原子力発電所での事故において,“リスク”と“想定外”という言葉をよく耳にするようになりました。普段何気なく使っている場合も多いのですが,この間の議論を聞く中で,改めて考えるようになっています。

 

“リスク”という言葉には確率的,不確実性などの意味合いが含まれています。確実に発生するという訳ではないが,可能性が考えられるというような感じでしょうか。“危険性”というように言い換えている場合もあるようです。

学問的な考察においては,確率的といった場合には,具体的な調査データに基づいた数値として確率が算出されています。ここまでは極めて科学的であり客観的な評価と言えます。例えば,「タバコを吸う人は,吸わない人に比べて肺がんになる確率が4.2〜4.5倍高い」(『がんのリスクの大きさ』〜国立がん研究センター)というようなことです。

 

ところが,これを危険と感じるかどうかは,それぞれの主観や考え方が反映されます。4倍を危険と感じるか,まだまだ大丈夫と考えるかは,個人個人で異なります。タバコを吸わない人から見れば,喫煙は健康に害を及ぼすものであると思う反面,「毎日2合以上の飲酒を行う人は,飲まない人に比べて食道がんになる確率が4.6倍高い」という評価を聞くと,その程度かと考える人も出てくるはずです。

 

ひるがえって普段の生活を考えてみると,電車に乗る時,車を運転する時,ジェットコースターに乗る時,さらには,生ものを食べる時,医療行為を受ける時,運動をする時などあらゆる場面でリスクを受け入れていることに気づきます。電車に乗る時に運転士さんの体調をチェックすることはできないですし,健康診断を行ってから運動を始めることも無理です。生活するということは,そもそもリスクを受け入れる選択を迫られているとも言えます。

 

ただ,全く何も手立てがないかと言えば,そうでもないようです。先ずはよく見極めることではないでしょうか。様々な情報が入手しやすくなった分,客観的な事実を把握することが可能です。理由もなく過度に不安がる必要はないはずです。そして,可能な範囲でリスク回避を図ることです。交通手段であれば選択も可能ですし,禁煙をすることも,休肝日を設けることも可能です。その上で最後は,受け入れるべきリスクを選択することとなります。

 

現在,放射線に対するリスクが際立って大きく取り上げられているように感じます。そもそも放射線が存在する自然界の中で進化してきた人類の歴史を無視したような議論には,大いに違和感を覚えます。感情に流されずに,理性的に対応すること,これこそがいま最も求められていることではないでしょうか。

 

一方,“想定外”という言葉は,今回の場合,防災対策の当事者側や電力会社から主に聞かれます。実際の備えをどの程度まで行っておくかということは,津波対策のための堤防を設置する場合や,事故時の影響が大きいといわれる原子力発電所の建設においては,極めて重要な問題です。施設や設備を設計する段階では,要件定義として「何をどの程度まで満足させるか」という条件を明確にしますが,逆に言うと,この条件を超える場合にはどうなるかは分からないという意味で,正に“想定外”となります。

 

例えば,堤防の場合には,どの程度の津波まで耐えるようにするかという“性能要件”が大事であり,原子力発電所の場合には,どのような非常事態を想定して対策を打つかという“安全性要件”が重要ということになります。もっとも,実際の場合には,その他の“信頼性要件”や“経済性要件”などとの兼ね合いで調整が必要となる部分が出てきますので,そこが設計者の腕の見せ所とも言えます。

 

ただ,厳密に設計を行ったとしても,現実的には,人的な要因による操作ミスや,運転制御の前提となる計測器の誤作動などの可能性も考えられ,過去にもこのような原因による災害が発生していることを踏まえると,“想定外”という意味合いも非常に複雑で奥深いものが含まれているように感じます。単に,設計における条件設定の問題にとどまらず,全体的な管理の問題も含めた総合的な要因が関わるものと言えます。ましてや前提となる制約条件が恣意的に設定された場合には,技術的な考察は無力となります。

 

現在,原子力発電所の被害状況が注目を集めていますが,今回の震災により,我々が関わっている通信の分野においても,“リスク”と“想定外”ということを根本的に考え直すべき課題が出てきています。今回貴重な体験をした我々が,この機会に真剣に考え,取り組みを行い,そして後世にどのような教訓を残せるか,今それが問われています。

 

過去に津波の被害が多かった三陸海岸各地には,約200基の津波に対する教訓を記した碑が建っているとのことです。

次に何を書いて残すか,我々に託された使命のような気がします。

| - | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark | 昨年の記事