3月になりました。
あの大震災から1年になります。月日の流れははやいものですが,復興にはまだまだ時間を要するようです。最近は,大量に発生した瓦礫の処分に関する報道を頻繁に聞くようになりました。不自由な生活を強いられている状態では,肉体的にも精神的にも負担が大きくなってきています。平穏な日常生活が一刻も早く取り戻せるよう,一致団結して協力していくことが大切ではないでしょうか。
時間の経過と共に,実際にどのようなことが起こって,何が問題であったかということも次第に明らかとなってきました。考えてみれば,非常に多くの方々が巻き込まれた災害ですので,様々な面からの検証が必要なことは言うまでもありません。特に,緊急時対応や災害対策と言う面では,貴重な経験として今後活かしていくことが重要と言えます。
通信の分野で言えば,震災直後の昨年4月から開催されていた総務省の「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」が,昨年の12月27日に最終的な検討結果を取りまとめております。その中では,災害発生から復旧までの経過や,その間にかかわった当事者からの意見聴取も踏まえて調査検討が行われ,その結果として,今後国や電気通信事業者が行うべき内容をアクションプランとしてまとめています。
そして,この検討の方向性も踏まえて,携帯電話事業者においては,音声メッセージを音声データとしてではなく,“パケットデータ”として相手に確実に伝えるサービスが今月から開始されており,また,カバーエリアを大規模化した“大ゾーン基地局”の設置や,基地局の“無停電化”あるいはバッテリーの“24時間化”などが既に行われております。また,先月末からはFacebookにおいても“災害用伝言板機能”の提供が開始されております。
いずれにしろ,今回の震災では,災害時における連絡通報手段としての無線通信の有効性が,改めて認識された形となったようです。
無線と言えば,昨年から注目しているのが米国・モトローラ社の動きです。
同社は,1928年に設立されましたが,世界で初めてカーラジオを開発し,これが社名の由来にもなっています。そして,1970年代以降は無線通信機の世界的なメーカーとして,業界を代表するリーディングカンパニーの地位を占めてきました。実際,1990年代後半には,世界の携帯電話の約半分がモトローラ製であったとのことです。
この間,1980年代からは,衛星電話サービスの開発にも着手しましたが,これが裏目となり,1998年から開始した顧客向けサービス(イリジウム)が僅か1年で頓挫したため,企業収益が急速に悪化することになります。その後の携帯電話や無線LANを始めとした無線技術の進化は急激なものでしたが,主役の座は奪われた形となり,ここしばらくはあまり目立たない存在となっていました。
そのような中で,昨年の1月に,「モトローラ・モビリティ社」と「モトローラ・ソリューションズ社」の2社に分割されることとなります。前者の「モビリティ社」は,不振であった携帯電話端末を中心とした事業を引き継ぐこととなり,一方の「ソリューションズ社」は業務用無線技術などを核にしたサービスやソリューションを提供するという体制です。
これまで一体化して取り組んできた体制を見直して,これからチャンスと思われる領域にターゲットを絞り込んだ形で競争を有利に勝ち抜こうという戦略のようです。会社を分割するということは正に英断と言えますが,一方では,そのようにせざるを得ないところまで追い込まれていたという見方もできます。いずれにしろ,かつてのリーディングカンパニーが分割されるということは,我々にとってはある意味での驚きと共に,感慨深いものもありました。
ところが,昨年の8月に発表された内容を聞いて再度驚かされることとなります。今度は,米国・グーグル社が「モビリティ社」を買収するとのニュースです。出遅れていた携帯電話端末の事業を,グーグル社が推し進めるアンドロイドOSで巻き返そうという動きでしょうか。
かつて無線の技術は,周波数ごとに割り当てられた業務用途別に細分化されて,それぞれの専用端末が用意されていました。しかし,その後,携帯電話が急速に普及し,世界的に急激に拡大した市場となったのです。それに伴い,様々な技術が進化して,スマートフォンなどの形で融合し,無線端末として統合される動きとなっています。そのスマートフォンの機能を支配するのがOSであり,その勢力争いが繰り広げられています。携帯電話端末の争いは,実はOSの争いでもあると言えます。
一方,残された「ソリューションズ社」ですが,こちらは無線機単体での勝負ではなく,システム化されたソリューションとしての勝負となっています。特に,業務用の対応としては,高機能な無線機をどのような仕組みで活用するかと言うような取り組みが必要な状態になっているということです。正に付加価値の追求と言うところでしょうか。
今回の企業分割については,一見して,環境変化への対応が立ち遅れたことによる窮余の策という見方もできますが,実は,時代の流れや今後の方向性を冷静に見極めた上での戦略的な動きであるようにも感じます。
グーグル社による「モトローラ・モビリティ社」の買収は,先月に米国や欧州の規制当局からの承認が得られ,新たな経営陣の選出も進められています。いよいよ新たな展開での競争が始まりました。
我々を取り巻く環境は着々と動いています。役割が見直された無線ですが,その取り組み方は新たな局面に入ったと言えます。
これからの方向性がいよいよ明らかとなってきました。